新約LILIUM 感想(追記:ハロプロ版感想)

ひどい話を期待して行って、上手な役者陣いい歌すばらしい衣装で期待通りのめくるめくひどい話が展開されるので、よっ!ひどい話!とニコニコしていた。

TRUMPシリーズを映像で飛び飛び見ている程度の理解ですが、末満さんの書く話ってひどいことがたくさん起こりまくるものの、俯瞰の視点で描かれていてドライだなと感じる。見せ方が叙事詩的というか。今回のはじ繭で黒世界がラインナップされたことで、リリーの今後を周知しLILIUMを前日譚として味わうことができるのもそう。苦しみの渦中の人々へフォーカスを当てるというか、こういった行いの結果こうなったという因果を説明しているので、悲劇に対して「もうやめてくれ~!」というより「そりゃあ……そう、そりゃあそうなるな……しゃあないですね……」という理解になる。今回、リリーがひとりぼっちになったのは気の毒だが、みんなに「不老不死、やりたい?」と確認せず、ファルスに一矢報いてやろうと勝手に殺しちゃったのが原因だし……。

やっぱりみんな本当にまじめなせいで酷いことが起きているな。ソフィからしていくら金も時間もあるとはいえ、何百年もこつこつと成功するかわからないというのに、己の血液から薬をつくって忘れずにちまちま与えるマメなことを投げ出さず延々と続けていてね。ダンピールの頃から変わらず勤勉ではあるせいでこんなことに……。リリーもおとなしくて博愛の人ではあるが、ものすごく頑固で強烈に責任感も意思も強いせいでこんなことに……みんな~適当に生きろ~!

あとLILIUMには「不用意な生殖をすな!」のポイントがなかったのもストレスがなく助かった。なんでそこだけはみんな適当というか超うかつなんだ。

 

だいたいのこと「そりゃしゃあないな……」&「ひどくてきれいでたのしい~!」と思いながら観ていたが、マリーゴールドにとっての生き甲斐で唯一の友達で自分の「すべて」にしているリリーと自分の憎んでいるスノウとが、自分の眼前で二人こそが親友で自分は蚊帳の外でしかないことがわかるというくだりは「ひどいことすな!」と素直に思った。なんて残酷なことをするんだ……。マリーゴールド、あの作中でひとりだけ、そこにいる生きている人間へちゃんと執着の姿を見せているから同情を寄せてしまう。

 

幸い近めのお席で見られたので、役者さんの演技や音圧ももちろん、衣装のディティールがよく見えて嬉しかった。本当にリッチで美しく素晴らしかったな~。Dior展の試作品の部屋を思わせる、まだ何者でもないいきものたちの衣装としてとてもマッチしているし、どの人物も顔を隠してしまうと紛れてしまうのも群のいきものたちといういう感じがしてよかった。衣装展開催してほしいな~、じっくり見たい。

 

あとは本当にただ楽しかっただけの話ですが、姫ねえさまのくだりがだーいすき。無邪気な繭期でかわいいし、親衛隊を自分のカリスマで獲得していてすばらしいよ。もっと姫ねえさまのソロステージを見せて~になってしまう、惜しい人をなくした。

 

追記:ハロプロ版を観ました(20230504)

ハロプロ版リリウム、今まで見たトランプシリーズのなかで一番好きだ……!

まずみんな芝居も歌もうますぎてびびった。ローティーンのハイレベルな役者さんが奇跡的にハロプロにたくさんそろっていたからこそ、十代が演じる意味と完成度の高さが両立する作品となったもの、観られてよかった。

初演と新約で重要なシーンの戯曲や立ち位置等の演出が同じ部分が多いからこそ空気感の差異が際立った。旧約版って「かつてほんとにあったこと」で、新約版はそれをもとにして作ったお芝居くらいの違いがある。

 

新約版の整然とした迫力や贅沢な衣装は完成されたよさがあるが、想定された年齢通りの思春期の子たちが演じる生っぽさ、得難いな……鬼ごっこをしていたり犬の子のように重なって遊んでいて違和感のない年ごろの子たちが演じると、こんなにも「ほんもの」の空気が満ちるのか。

 

初演ファルスはこどものまま時が止まってさみしいだけで動いている不老不死の生き物っぽさが強く「時間だけはあるからね」の部分も、さみしかったならしょうがないな……またがんばるんだよ……という気持ちになってしまった。新約のファルスちゃんはもちもちキュートだが、ある程度成熟した思考をもったままこどものロールをしていて、回りも同じ目にあっちゃえばいいという無邪気な悪意が感じられる分邪悪だな……

 

逆に初演スノウは見た目十代で八百年生きてきた自覚のある女性に見えるし……マリーゴールドは孤独なこどもの顔からガチミュージカル歌唱が出てくるし……リリーは黑世界の時点でもうふつうに好きだし……リリーとスノウとマリーゴールドが三人で歌う場面、迫力でも演技でも新約にひけをとらないすばらしさだった。繰り返しになりますがなんでこんな芝居の爆裂うまい十代半ばの人たちがアイドルとして同グループに所属しているんだ……わたしもハロプロのオタクをやっていたところ、これにいきなり激突されてめちゃめちゃになるという事象が発生したかった。