x純文学少女歌劇団 File No.0001『マエストロには背を向けよ』感想

今回もストレートに女性のための革命の話だし、いい入れ子構造だしでありがたい。

歌劇団のルールは「真実を闇に葬ったって、それはすべて演技だったと言えばいい。時には本音を織り交ぜながら歌うことだって許される」「ここでの告白はすべて演技、たとえそれが、真実だとしても」なので、x純文学少女歌劇団という作品自体が、虚構に紛れこませて本音を言うことというたてつけになっている。

 

そのうえで1幕と2幕で彼女たちの振る舞い方が全然違うんだよな~

1幕は芝居なので「観られている」という自覚がなく、彼女たちは自然体(に見える姿)で秘密を開示するし関係はひりついている。少女たちの置かれている立場はあからさまにアイドルの現状の比喩で、剝奪された自由の権利を取り戻すための革命を阻害されている話をやっている。彼女たちの境遇は父親が先生と不倫してたり使用人が先輩と夜遊びしてたりシビアでせちがらく、まじめに従順にやれば生徒のトップになるがめちゃめちゃ損をする、自由を訴えれば抑圧される、搾取され分断されとるんだぞをやっている。

2幕は彼女たちに客席が「見えている」ので、彼女たちは明るく楽しく仲の良い姿で歌い踊っている。ちょっとした秘密を見せるけれど、それはNo0000で言う「 女の子はいつでも秘密を持ち演じなければならない。教師にはそう教えられた。ただしその秘密はバレやすく、泣けば解決するようなもの」である。本当の秘密は見せっこない。マリア先生やおねえさまが日替わりで出てきているのも楽しい茶番だ。パフォーマンスとしての「こわ~い」で全員好きにさせちゃう。

とても楽しいんだけれど1幕では冗談にできない切実なことすら2幕では彼女たち自身が己を「キャラ」として提示し消費させにかかっているのが空寒い気持ちにもなる。「キスで目覚めない人生認めてくれよ」を訴えている彼女たちがくったくなく純文学少女=アイドルをやってるのどう受け止めればいいんだ……? セイラがMCとして「ぜんぶ本当のことを言ってる」というような意味のことを発するので、1幕を踏まえて観ると逆説的に「2幕はぜんぶうそ」になるし……

 

もっとも1幕の彼女たちも実はあれが「芝居」ということに自覚的で、見せられる範囲での秘密しか開示していないのかもしれません。

私は「x純文学少女歌劇団」というコンテンツの階層の仕立て方を

0:生身の人間(舞台裏/客からの視認不可)

1:アイドル(接触時の姿)

2:キャラクター(1幕)

3:演技をするキャラクター(2幕)

と認識していますが、もしかすると

0:生身の人間(舞台裏/客からの視認不可)

1:アイドル(接触時の姿)

2:キャラクター(舞台裏/客からの視認不可)

3:演技をするキャラクター(1幕)

4:演技をしている演技をするキャラクター(2幕)

という形なのかもしれない。演技をしていない状態でのアリスやモモをはじめとする少女たちは我々の前に出てくることはなく、1幕はドキュメンタリーではなく彼女たちが現実に体験した別の真実をお話の形に作り替えて提示している虚構なのではないかな。

もっとも我々はあれを真実として信じることしかできないが。お話を最後まで観たら何が真実なのか分かるかもしれないしひとつもわからないままかもしれない。

 

お話とキャラクターのこともちょっと触れたい。やっぱり今回も秘密を知ると不幸になるというルールが敷かれていていいね……。

めちゃめちゃ威圧的なヤンキーの先輩として現れたメグおねえさまだったけど、狭い世界での支配者だったのは過去のこと、すぐさますでにひみつを知ってしまった側の存在としてひたすら苦しんでいる姿が開示されまくり、果てには緑色の栄養材のような毒のようなものを自ら服用していて……よくない気持ちになりました。ヤンキーの先輩には一生天下を取っていてほしいのですが……

セイラは不当な手段でおともだちを得たので贖罪のきもちがあってかなりかわいい。いい役だった。

あとリンゴさんが特に好きなのですが、黒髪センターパートの美女のビジュアルで、友達がいなくても構わずガンギマリの女を戦略的にやっていてクレバーな女の性格が乗っかっているので最高になってしまう。今回も怖いおねえさまにも臆せず、事態がヤバくなると目をかっぴらいてわけわからんことを言うことで煙に巻いてくれたし。

 

2幕、さっきアイドル消費をどう受け止めればいい……?という意味のことを書いたが、パフォーマンスとしてとてもたのしい。前回と違って制服姿で踊ってくれたのも、劇中歌も多かったのでうれしかった。やっぱり制服ディティールが凝っていて超かわいいし、No.0000の楽曲も好きだし。

そして生徒会長のいうことは~ぜったーい!をコール&レスポンスできて嬉しかった。王様のいうことはぜったーい! 王様の言うことは……絶対なんだよな……

やっぱりなににせよ革命は成功してほしいよ~歌劇団は王子様へ奉仕するためにあるのではなく、彼女たちが秘密を明らかにして団結するためにあるのだと思うし。アイドルとしての彼女たちを応援している人からすれば永遠に終わってほしくないのだろうとわかっていても、彼女たちがちゃんと終わりを迎える姿を観たいと願ってしまう。今のままだと未来が決まってしまうんだったら何か動いたほうがきっといい。どこへも辿り着けなくてもそこよりはましだろうしね。