BREAK FREE STARS 感想

ヒップホップのとっても楽しいショーケース、あるいはヒップホップ教の神話だった。

 

楽しいアトラクションでヒップホップの要素が詰まってて照明含む舞台セットがリッチ。後ろのほうの座席でも視界が開けており全景で観られておもしろかったが、前方席だと没入感があってより一層楽しいだろうな~。

ダブルダッチやらリアルタイム映像+ダンスの合わせ技なども含め、筋立てに沿ってあらゆるパフォーマンスが観られて嬉しいし、ヒップホップってたのCのアトラクション舞台でよかった。

 

あらすじは、ヒップホップってなんか悪そうだから禁止という悪法によって収監されたヒップホップスターたちがヒップホップの力で刑務官たちの心を溶かしたり脱獄したりして、刑務官側に行ってしまったかつての友を呼び戻し法律も撤廃されるという、とてもシンプルなもの。「すべてを吹き飛ばす力、それがヒップホップ!」をパフォーマンスで魅せ、ストーリーで人間の感情の機微をやるのはむしろ邪魔というくらいの気概を感じたが、そのおかげで発生する妙味がある。

 

囚人側は徹底してヒップホップが善という思想を貫いていて強固でゆるぎなく、パフォーマンスによって表現される熱量がグルーヴを生み周囲が感化されていくという流れなので、葛藤・変化・人間ドラマは敵対する刑務官たちや、法に正攻法で立ち向かうが挫折するオーナーに発生するのでそっちに情が傾いちゃう。

 

囚人側はヒップホップスター、ヒップホップに目覚めたそのときからずっとヒップホップとともにあり、どこにいようと膝を折らないの、見た目はワルだがかなり高潔なんだよな。ヒップホップ禁止条例という悪政を打ち倒さず民意を味方に付けるやりかたをするのも、囚人側のバックボーンが描かれずにキャラクターというよりスター概念として存在するのも……と考えていて、これって信仰者の側から観た物語だし、神話や英雄譚のつくりなのだなと思った。

もちろん英雄の前には困難が現れるのだが、ただひたすらそれをクリアしていき「ヒップホップは犯罪じゃない」という思想が揺るがされることはないのがかなりそれ。

 

そういえば客入れのとき、舞台はスクリーンで隠されているんだけれど、クラシックな劇場のように幕が降りている映像が映されており、オーケストラのチューニング音が聞こえて「あれ?生音でやるの?」と思ったな。幕を開ければブレードランナー的近未来が始まるのでそのギャップのおもしろさを狙っているのだな~と認識していたが、味付けとしては近未来ですが古典をやりますよということかもしれないな。うがった見方かもしれませんが。

 

そういう風に見えちゃうのは、うしろのほうで観たのでキャラクターの見分けがつけづらかったのもある。

事前に出ていたブロマイド衣裳ではかなりキャラ付けされているようだったが、本番はフォルムも色味もみんな似ているので、より群としてのスターたちvs刑務官たちという印象が強かった。メインの二人ですら来歴の掘り下げは最低限なので、キャラクターというよりも抽象化したものをみせる意図なのかなという気もするが、本当はどうかわからない。

私情100%で言うと、見分けとか意図とかはどうでもよく、ただただシャツ+ベスト姿のインテリヒップホップスター・キョウが観たかったよ~! あの衣裳で踊ったらベストの背中がびりびりになるよと言われたが、そこはまあなんとかがんばってもろて。

 

話がそれたが、ヒップホップというものの力を真正面から信じている人じゃないと作れない舞台だし、ヒプステを通じてその姿勢を見てきた人たちが客席にいて、あれだけの人数がヒップホップの入り口に立っている状況を作り出したのってすごいことだなあと思う。