舞台サイボーグ009 感想

舞台009、気になって仕方がなかったので現地前に配信を買いました。
かつて平ゼロから入って原作が好きになったサイボーグ009のライトなファン(アニメの記憶はおぼろげ、原作は電子で買い直した)で、ヒプステのオリジナルディビジョンを追いかけていた者なのでそもそももかなり期待していたのですが、更には現代テクノロジーによるクラシックヒーローコミックの三次元化という文脈で、MCU好きとしての心も満たされてしまってありがたかった。

 

あまりにまっこうからサイボーグ009だった。
物語のテーマは「サイボーグ戦士誰がために戦う」だったし、9人いることの意味も孤独も連帯も全部あった。
戦いたくはないが戦わなければいけない理由を見いだした島村ジョー、そしてゼロゼロナンバーサイボーグのチームとしての「誕生編」でもあったね……。

 

0010をメインにするらしいけど原作だとかなり爆速で倒されるのでどうするんだと思っていたが、本作見終わったあと考えるとそうだよな~!これしかないよな~!の内容だったな。
今回の0010って、原作0011の改造された肉体への悲哀や0013のように組織に操られていた立場、地下帝国ヨミ編冒頭に出てくる鑑別所の仲間たちの過去の友情を思わせる造形だった。だから過去仲良しの兄弟だったオリジナル要素と練り合わせても自然に最初からこうだった気がすると思わせてくれた。
改めて原作読み返すと自滅を狙う倒されかた以外は全然違うのに、誕生編ベースにエッセンスを的確に抜き出して「本物の009だ~!」って思わせてくれてとてもよい編集だったよ〜。舞台化にあたり最適な姿に翻案して新しい一面が見せてもらえるの、一番好きなメディアミックスの形だ。

 

「プラスとマイナスは双子の兄弟だ」という設定から、サイボーグたちはもう一度「誕生」させられた「兄弟」なのだという話に繋げて、天涯孤独だったジョーが、皮肉にも「誕生」したことで「兄弟」を得るという流れが見事で……
かといって兄弟だから救わなければいけない、という強制力に傾きすぎず、ジョーはシキとリクに救われたから救いたいという個人的な思い入れと境遇への共感に端を発するのもよかった。

共感の波及でゼロゼロナンバーたちが連帯するのも美しい流れだし、ぽっと出のジョーがなぜかリーダーになるのではなく、ジョーが彼らを助けたいと思ったから、そしてみんながその意思に共感し共闘に至るのでより説得力のある流れだったと思う。

そしてこれは趣味ですが、天涯孤独のやさしいおにいちゃんとやんちゃな弟としてのリクとシキ、道を分かたれて敵対する友情としての009と0010、あまりに慣れた好きな味がする~!配信を観ながら山賊のような高笑いをあげてしまった。二つの光……二つの影……主人公ジョーのソロの歌で、ジョーの心情が歌われているとみせかけて「シキとリクの兄弟が本当にいい奴だったし僕の光だった」なのずるっこいぜ。きっと客席8割方が原作ファンだったり予習していたりで0010の末路は知っていることを見越し、舞台オリジナル設定のシキとリクのあまりにくったくない過去をぶつけて、先回りで客席をべちょべちょにしているんだ。ガハハひどいことするなと高笑いしながらべちょべちょになっていました。

元々脚本亀田さんへの好感が超高いということもありますが、ありがとう~!

 

そしてシンプルで骨太な脚本に、びかびかギラギラの照明効果やバチバチのダンスと肉体表現、リッチな映像をふんだんに乗せてくるの、これも本当に好きなやつでうれしい。
やっぱりミュージカルのダンスが上手いやつが強い、歌がうまいやつが強いという世界観が好きなんだ。ジョーを怒るみんなのシーン、ラップバトルというか、激詰めを怒鳴りまくってやられると見ていてしんどいので、あの形で表現されるのスマートだし感情は伝わるしで大変助かった。

ミュージカルにおいて音楽の部分を担うラップはこれまでたくさん浴びてきたが、台詞と歌の中間として用いているの見たことないかも。ラップです!っていうほどラップじゃなく韻でわからすポエトリーリーディングに近いな、いずれにせよ新鮮だ。これからもっとブラッシュアップされていくと思う。

 

あとこれは勝手に感じたことですが、スーパーヒーローのオリジンもの、そしてヒーロー集合物としても嬉しかった。
MCUの話をすると、ヒーローオリジンの型である「スーパーヒーローが力を得て逡巡したり調子に乗ったりするものの、最終的に自分がヒーローとしての自覚を得て、敵を乗り越えヒーローとして名乗りをあげる」というプロットを今回きっちり踏襲しながら、その一歩先に行っていたのがいいなと思ったところ。
フランソワーズがちゃんと、あなたは人を救った「島村ジョー」であると引き戻してくれるの、一つの解だ。ずっと戦いたくないというフランソワーズが臆病でなく意思の強さでそれを言っているのがきっちりと伝わるし。これまで公人となってしまい私を失ってしまったヒーローたちを多く観てきて、ヒーローをやめるには死ぬしかないんか!!?と思っていたが、今回、ヒーローになろうともあなたはあなたという人格ありきの存在なのだよ、と言ってくれる人がいて、己でもまず個としての自認を失わないでやっていくというのがひとつの答えなのかもしれません。シキとリクに名前があった意味もそうだ。

いや、それでも死ぬまで戦いは終わらんのかい!?と思ってはいるのだが……でも少なくとも孤独ではないのだろうしな。

みんなはヒーローの連帯としてゼロゼロナンバーで呼び合っている、それはそれとしてこれからは一人の人間として名前を呼び合う兄弟がいるのだよというのを見失わなければさ……フランソワーズはサイボーグであるという鎖が絆になるかもしれないと言っているしね。

そういえばサイボーグとしてさらわれる来歴のシーン、グレートと張々湖がともに人生に絶望していて死にかけていたところからの反転なのもそうだね。全然違う場所にいるが、心情として同じだったんだよなというの、ムードメーカーの二人がコンビとして描写されるのにヘビーだがいい前置きだ。
兄弟、一番末っ子の009を助けるためにみんなが集合して0010を倒すのもよい改変だった。兄弟VS兄弟だし全員兄弟なのにねというかなしさもあるが、全員に見せ場がある群像劇であるのがよかった。仲違いを経て全員が協力してひとつになる、そしてジョーを迎え入れるという話なのはそうか、009の「誕生」であると同時に、この九人のチームの「誕生」でもあるんだね……


はやく地下帝国ヨミ編を観たいな。こっちは続編がある気でいるからな。
今回がある意味ヨミ編前編でもあったと思うので、こっから後編にね。たのみます。

その前に早く現地で見たい、楽しみだ。

 

 

追記

現地で観た~!やっぱり009をこの座組でやるよと言われたときに期待していたものがぜんぶ盛りでうれしい~!

 

二階のセンター付近だったので全景の画角がきれいに見えてたのしかったぜ。何より現地で照明と音響効果を味わえてよかった。オープニングでのでっかい機械を作動させるプロジェクションマッピングに、レーザー照明による攻撃やジェロニモと敵の競り合いの表象、紗幕を使った加速装置の表現なんかは遠くから見たほうが美しいし楽しい気がする。0010、加速装置とプラズマっちゅう表現しにくすぎる能力をよくぞここまで。CGに頼り切りでもなく、漫画やアニメとはまた異なる舞台特有の照明表現、そんな戦闘のある2.5舞台たくさん観ているわけでもないが、多分バトルにおける照明効果を新しく開発してるよね……? 

あとはGoProでのリアルタイム投影、客席通路で009を追いかけるシーンが二階からだと見えないのであってくれてたすかるし、スカール様への中継になっていて意味がある。

 

とはいえ映像より生身の人間の身体表現のほうがさらにすごいぜ、となることが多々ありうれしい。ジェットは空を飛ぶ、を見せるためにワイヤーアクションをしてくれるが、それよりもぴょんぴょん宙返りをしているときのほうが身軽に飛んでいる~!となるし、ピュンマも水に飛び込むときの身体の動きこそがえげつないほどそのもの。

やっぱり舞台における映像って映画のCGのようにあくまで脇役、主役を引き立たせより効果的に見せるためのもので、人間の演技こそが芝居を本物たらしめるので……

 

しかし改めて場面転換がうまいな……。みんなが袖から入ってきて明転、みたいな時間のロスがまるでなくてきれいだ。特にスカール様のシーンからゼロゼロナンバー勢揃いのシーンにうつるところ、全面のプロジェクションとレーザーで幕のめくりを表現している、シルエットから全員の姿が浮かび上がってカメラが寄るようなしくみになっているのほれぼれしてしまう。

2と3のいいお歌の間に博士に操られながらひとりひとりハケていくのもいい演出だし5が動かないのも現実に戻っててお茶目でかわいかった。

 

物語として改めて観て気付いたのは、ジョーが侮辱に耐えかねて人に手をあげ少年院送りになったから、それを反省して激昂しない、対話で解決するというのが基本姿勢になっており、それが2458からの詰問に対する態度なんだなというところ。0010へも対話をこころみようとしている人ならそうするのがふさわしいよな。

 

ならなぜ刑期を終える前に少年院から脱走を……?と思っていたのだが、人と話をしていて刑務所の待遇があまりにもひどかったのではないかというところに落ち着いた。それまで一人だったけれどみんなで脱走を図っているのも、自分ひとりが耐えれば済む話ではなく、みんながひどい目に遭っていてというなら自然かも。リクがパン盗んでるくらいだし飢えていたのかもしれない。石ノ森漫画において飢えた記憶のある人はレストランで人に料理をふるまうものだから……。

 

レストランといえば6と7のショーステージのシーンがやっぱりだいすきだ。結局色々と思うところはあれど、降って湧いたセカンドライフをおおむねたのしく過ごしているおじさんたちのことが好きだな……MCUだとGOTGとアントマンが好きというのと同じ回路かも。

 

そして生で見るとシキとリクの最後、ショートしたあと二人の倒れた場所が映像で見る印象よりずっと離れていて、近寄るまでの距離が果てしなく見えた。こっちはMCUのワンダとピエトロを幻視しているので、ひどい話なのだが、片割れが取り残されなくてまだよかったのかもしれない……になっています……。ずっと一緒だね。何度見てもめちゃめちゃになってしまう。

 

あらゆる効果が非常にあざやかで見事なのであるのと同時、脚本はしっかりヒューマンドラマをやっているし、そのための原作からの再構成のしかたも的確ですごいな。来歴はほとんどカットして誕生編のさわりと0010のところだけ抜き出す(&0010のところめちゃめちゃ足す)の英断。ダイジェストにならない物語として90分1本でおさまるところも改めてかなり好きなポイント。亀田さん~(めろめろ)

 

書いてたらまた観たくなってきたな。まだ配信があってたすかった。観てきます。