『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Renegades of Female- 感想

観る前からわかっていたことだが、案の定♡亀田さん♡になって帰ってきた。やっぱりずっと亀田さんがヒプノシスマイクというフィールドを使ってつくるオリジナルのストーリーとキャラクターが好きでヒプステを追っていたので、ひさしぶりに一本まるまるオリジナルのお話が観られてうれしいよ~

なんやかんやでtr5はコミカライズの流れを汲んだりもしていたしAADは名目上Liveだし、完全オリジナルストーリー長尺一本はtr3以来ということになるのではないですか?ずっとこれこれこれ〜!になっていてたのしかったね。

中王区という奇っ怪な組織の最高さと最低さと変さをすべて詰めたことで、結果的に男女逆転エンタメ女性コンテンツとして、ここにしかない味が発生していてありがたかった。
未来ある若者や政治家、愉快犯に復讐者、正しかったりそうじゃなかったりするが、全員己のエゴと理想のために画策したりぶつかりあうさま、男メインならいくらでも見たことあるが、女だけの物語でこれが観られてはしゃいでいる。世にあふれている男性メインのコンテンツのきれいな逆転、女だけの闘争と謀略と友情のエンタメを2.5で見ることができるのかよ~!いい時代!と感動してしまった。

これってヒプノシスマイクというコンテンツの中でも変で難しくてめちゃめちゃおもしろい設定が詰まった中王区の、あらゆる要素がぶちこまれたことで発生してますよね。
女性がメインターゲットのコンテンツで、メインキャラクターは男性オンリー、敵は女性のみで構成された独裁政権であるというどういう立場で受容すれば……という点。
乱暴な男女二項対立に仕立てられているが、世の中ってそんな二元論にはならないよな……という点。
しかしバリエーション豊かな女たちの組織による政治はあらがいがたく魅力的であるという点。
それらを亀田さんという凄腕脚本家かつ男性が纏めたことによって結果的に発生した妙味、他では味わえなさすぎる。

メッセージとしてエンパワメントがあるわけではないが、脚本演出が男性、中王区も決して正しいばかりではない独裁組織なので、エンパワメント方向に作られていたらしこりが残るだろうなという気もする。作中の問題に対してしっかり疑問と方向性をつきつけながら展開されたので、考えうる限りいい方向での舞台化だったように思う。好みの問題ですが、全員女性だからといって、女性であること考えなきゃいけないということもないもんな。男性ばかりの舞台で男性であることをテーマにした作品がどれだけあるかっていう話で。
出演者全員女、観客九割女、おもしろいエンタメがこの世にあらわれた事実が幸福だし、まだまだ新しいことがやれるぜ~!という希望を感じました。

H歴以前の社会の男たち、冷蔵庫の兄など、男が舞台装置として扱われていることを喜ぶのってあまり健全なことではないし、冷蔵庫の女にはうんざりしているのでダブスタもいいところなのですが、死せる兄にのみ感じられる高揚があります。
一月という有能な政治家の兄、一愛にはやさしくて自慢の兄だったかもしれないが、有能な政治家が清廉潔白だったかというと……ですし、外から見れば彼も誰かを踏みつけにしていたのかもしれないがすべてはもう語られない物語、物言わぬ存在だからね、というところにかわいさがある……あるんだよな……。
コンテンツのメインキャラクターたちも中王区サイドからすれば、理想のために捨てた息子、乗り越えるべき兄、脇役であるというのもね、この話の主人公は彼女たちであるという証だった。
もっとも、脚本として意図的に男たちを舞台装置化した、というよりも、男性は舞台に出せないが中王区という組織の成立上男性への言及は避けられず、結果的にそのような表象になったという話なんだろうが、今まで徹底的に舞台装置だった碧棺合歓が誰よりも意思の強い主人公として現れたので、反転がきれいにキマったなと思う。

女だけ集めたからって自然に連帯が発生するわけでもなし、連帯のため男を仮想敵にすれば歪みは発生するよということも、愛が動機ではあるのだが、己の愛する者が毀損されて「己が」怒っているということも、女だからなよなよしている、女だから強いということなくただ人間ってそうだよね、という描かれ方がフラットだった。バランス感覚がいい。
ピンヒールに長い髪にあらゆるアクセサリーにという表象や、心の弱さや少女的なふるまいを削って中性的にするのでなく、個々人にその要素があったうえで冷徹だったりクールだったりハンサムだったりキュートだったりしていて、聖母も娼婦も一人もおらず人間だった。
だからこそ男でも女でも関係なく対話しなけりゃ仕方がないという思想が効くし、置いたマイクを意地でも手に取らないという行動でその考えを体現した碧棺合歓という次世代のリーダーが爆誕したのもすばらしいよ。
山田一郎の対比でもあるし、原作キャラも舞台オリジナルキャラも家族を失った/手放したという軸で繋がった物語になっていてきれいでしたね。
元々原作でも肉親との離別エピソードが多いなと思っていたが、近しい人と離別してしまった人々が新たにチームを組んで新しい人間関係を構築するお話なのかとようやく理解した。それならマイクが絆のちからでパワーアップする魔法少女アイテムになるのにも納得だ。


キャラクターについて
碧棺合歓
碧棺合歓、おまえが主人公だったのか……になった。
中王区ステになってはじめて知ることがいっぱいあったのだが、これもかなりびっくりしたな。かなり王者の卵で玉座に近い場所にいるので、いっそ男たちが外の世界で内輪もめをあれこれしている間に内側から壁を解体していてほしい。
一方で一人だけものすごく“子供”の声をしていて、意図的なものかわからないのだがキャラクター表象としてかなりよかった。芝居のスキルとしてはこれからだけど感情はバチバチに伝わるので、これからきっとうまくなるというのも今回のお話とリンクしている。生身の人間を使うことで、19歳って子供なんだ……と理解させられた。
それでいて道を違えた友達にマイクを手放して向き合い、言うべきことはきちんと相手に聞こえる状態で言っていたので立派だよ。

追記
配信で観ていて「わからない」「でも太陽の下を歩いてほしい」ってセリフ、改めてすごくいいな……と思った。正しくあれとかお前は間違っているとか断罪せず、お前が堂々と顔をあげていられる生き方をしてほしいって告げるの、でっけえ人間すぎる。ストーリーでもテーマソングでも、月と太陽は特定個人の比喩として用いられていたと思うが、合歓の言う太陽はお天道様に恥じるなよという文脈、他人を指針にせず歩いていってほしいという意味なの、本人もそれを選んだんだから言える言葉だね。いい脚本だ……

天都己一愛
コスチュームチェンジ後のビジュアルがだ~いすき。カーテンコールだけの完全体で、おねえちゃんと片耳ずつピアスをわけあっていてよすぎた。兄の形見かもしれません。
中王区潜入のときの性格もまったく演技というわけではなく、ひとなつっこくて愛嬌がありハンサムな世渡り上手、まさに末っ子だったんだろうな~と思わせる。ツンツンした目上の人に対するコミュニケーションはお手の物だろうし。ひとなつっこい大きいわんわんのまま、自己紹介ラップがバキバキにうまいのでにっこりしてしまう。

ツクヨミ
これも観る前からわかっていたことだがツクヨミさんのこともだ~いすき。コンパクトなサイズで誰より態度はでかい、一番好きなキャラクターです。おじぎともいえない不遜なおじぎ、大笑顔になってしまう。マイクを持っていてなおメインの手段は街の爆破なの、ふつうに悪いのですが中王区のルールを破っての敵対なのではしゃいでしまう。
ツクヨミさんが不満分子を集めて最終何をやろうとしていたかはわからないのですが、愛する者を奪われたからこの世界をぶっ潰すではあったのだろうし……いつかヒプノシスマイクという相当にでかいコンテンツのメディアミックスでオリジナルストーリーをやってくださいと言われたときに初手で『派手な設定の狭間で人生をすり潰された山田一郎の幼馴染、堂庵和聖』を出してきたのほんとに気合い入ってて好きで、亀田さんにとってヒプノシスマイクでまずはじめにするべき話ってやっぱりそれなんだな〜ということが今回再確認できてよかった。

天都己イツカ、漢字は一日だったりする? 一日、月・日・愛と三人並べれば太陽だけれど、ひとりきりだと一日=朔日のため、新月の意にもなる。月を失い月になるしかないと思っているのか。元始女性は太陽だったというのに。妄言です。天都己家、父母の話がまったく出てこないから、もしかすると兄が妹二人を育てたのかもしれない。山田家の鏡のようだ。天都己姉妹、兄を失ったきょうだいでもあり、一番手を失った二番手三番手でもある。では苗字も天谷奴と対比ってこと……? 妄言です。

追記
お名前の漢字出てきましたね~一香さんか。
元々天都己という苗字はアマツミカボシからとってるのかもと考えていたけれど、漢字だと天津甕星となってアマツ・ミカボシだから違うか~と思っていたが、こうなってくるとひっかけてた可能性も捨てきれませんね。別名が天香香背男だし。
ネットで検索するとすぐ出てくる論文(https://nagasaki-u.repo.nii.ac.jp/record/6237/files/kyoikuJK00_44_07.pdf)だけの知識ですが、カガセオの名は「輝く」の意味で、アマテラスに最後まで屈しないまつろわぬ神であるから、太陽が沈んでも光り続ける明けの明星としての金星を意味するのではないかと言われているので、月はもう出なくても新たな太陽が昇っても光り続ける存在としてぴったりだ。そういえば金星はヴィーナス、愛と美の女神だから、一愛でもあると言えそう。妄言です。

東方天乙統女
中王区が政権を奪取してディビジョン制を敷いてる設定、いくらホビーアニメトンチキ設定とはいえどういうこっちゃと思っていたのだが、今回で言の葉党が政権をとれたのは東方天乙統女が政治家としてはちゃめちゃに有能なうえどでかいカリスマ性があるからだし、DRBを開催しているのも同じ理由ですと説明されてめちゃくちゃ腑に落ちてしまった。
オープニングの語りはtrackシリーズでも聞いていたもののはずだが、映像で出てきてたときはトンチキ世界観だな〜と流し観ていたものが生の身体と肉声を伴って発された途端に……圧倒されて……
武力による戦いの時代は終わり、これからは言葉が力を持つ時代です!さあヒプノシスマイクを使ってラップバトルをしなさい!もかなりどういうことやねんなので、乙統女様がなにをどこまで本気で言ってるのかようわからんな〜と思っていたのだが、演説として効果的だから言っていたのか……
中王区内ではかなり支持されている首相なんだろうなということが感覚で理解できてよかった。
月の音との対峙で相手のマイクは無力化したうえで自分は武器を持ちながら「私は逃げません、あなたがたの言葉を受け止めます」みたいなこと言ってたのほんとにうれしかったね〜、悪くて。
最後無花果さんが碧棺合歓のことを言の葉党にとって、この国にとって必要な存在になるかもしれないと言ってたときその言葉に同意しながらあからさまにまったく別の意図があるのもニコニコしちゃったよ〜。
ソロ曲で自分は母親ではいられなかった、自ら捨てたものはもう取り戻せない、我が子より理想を選んだその選択を後悔しない、それでも未練を断ち切れないのは自分自身の弱さ愚かさゆえに……と歌っていたのもかなりよかった 。
どんな事情があろうと子を育てる責任を自分自身で負わなかったことは事実で、その罪は事情によって酌量されるべきではないという自覚をはっきり語っていて 子の生育環境が望ましいものではなかったという事実があるとき、親側でゆるされるべきではないしゆるされたいと願ってもならない、それでも……という内心が開示されているとこっちとしても無闇に威嚇しなくて済むのでたすかりますね。
ヒプノシスマイクって内心を開示しないことによって無限に格が下がり続けるキャラクターがいるからもっとみんな思ってることをぜんぶ言ったほうがいいんじゃないか。

勘解由小路無花果
動揺がバカスカ顔に出るし露骨にひいきするし、全然完璧じゃない大人でよかったな~。
あのキャラクタービジュアルとパフォーマンスで、内面がなんなら誰より一般市民だよという描写をされることで、周囲の異様さが際立った。
物語として元報道の人間で正義の人という側面よりも妹を失ったことが強調されていたことも理由かも。
三次元としてそこで動いているところを見ると、乙統女様と対照的に組織のNo2としてはなかなかあやうい人だな~と思いつつ、東方天乙統女にしてみればこの人がNo2ってさぞあらゆることがやりやすいんだろうな……
あからさまに男性嫌悪が強い怒れる女でビジュアルが最高、H歴以前から知名度もあって広告塔としての効果は抜群、処理能力は高いしラップも強い、そしてとても信じやすくて純粋でまっすぐで自分を慕っている(慕わせたので……)ちょっとくらいの無理筋でも、誠意あるっぽい態度で押し切れば汚れ仕事だろうがなんでもやってくれそうで……
なお、無花果さんが客席からハケられる際、ジャケットの裾が5列目に座る私の後頭部にパタパタ当たっていって、かなりファンサだった。

邪答院仄仄
内心がはっきり語られるという点では仄仄の行動が「他人が大事にしているものがあるとどうしても欲しくなっちゃう、奪ったうえで壊したくなっちゃう」という理屈に整理されて説明されてたのもよかったな〜と思う。
だから災害としてじゅうぶんに脅威だし、それはそれとして原理が子供の駄々なので思い通りにいかなかったらムカつくし常に精神的な余裕があるわけでもないし……という。
しかし底知れなさはちゃんと残していて、それはひとえに役者さんの演技のパワーでもあるのですが、上述のとおり家族と失った者たちへの執着でできている話の中で、一人だけ親きょうだいの存在が明かされないつくりでもあるんだよな~。バックボーンが一切不明の怪異、そしてこれから肉親への愛はきっとパワーになるのでしょうが、今のところ執着はウィークポイントだから、それがない人間って無敵なんだよな……
この人のことドラマトラックでしか知らなかったので、根底に退屈があれども表向きは愉悦90%怒り10%の人間だと思っていたら、動きが雑でつまんね~を全然とりつくろわずデフォルトで退屈80%ちょっとマシ10%まあ愉快10%の人間だったので結構びっくりした。この世クソつまんねえ~の態度丸出しの身ぎれいな女ってキャラクターを初めて見たかも。
パフォーマンスもそれが反映されててかなり異質だもんな。
ダンスパフォーマンスってみんな笑顔、キャラクターによっては渋面だったり無表情だったりするが、それっていずれも観客の視線にこたえてくれているものだと思う。しかし仄仄はなんとなくほほえみっぽいものを顔面に貼り付けてやりすごすし、めんどくせえが踊れっつうことなんで踊ってまーすって顔のままバキバキに動くので、他人からの評価は気にしないし興味のないことは片手間でやるが能力はあるのでできてしまうというキャラクターそのままで目を引くよ。ここにしかない味。

 

たくさんいうことがあった。ほんとにたのしくて自分がこんなに女性キャストのパフォーマンスが好きだとは知らなかったな……になっているのだが、オールフィメールでめちゃくちゃ演出がリッチでかつ客席の9割が女性客の演目って滅多にないよな……来月から中王区2やってもらうしかないのか……それかダストバニーを……